大判例

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神戸地方裁判所 昭和48年(ワ)984号 判決

《住所省略》

原告 小田整形外科医院こと 小田一

右訴訟代理人弁護士 小牧英夫

同 小寺一矢

同 柴山譽之

同 吉野和昭

同(但し、第七七二号事件のみ) 山田庸男

《住所省略》

被告 国

右代表者法務大臣 奥野誠亮

右指定代理人 宇田川秀信

〈ほか二名〉

《住所省略》

被告 公立学校共済組合

右代表者理事長 安養寺重夫

〈ほか六名〉

右被告国外七名指定代理人 西谷忠雄

〈ほか四名〉

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

以下、左のとおり略称する。

正式名称 略称

被告公立学校共済組合 被告学校共済組合

被告製鉄化学工業株式会社健康保険組合 被告製鉄化工健保組合

被告兵庫県市町村職員共済組合 被告職員共済組合

被告神戸製鋼所健康保険組合 被告神戸製鋼健保組合

被告兵庫県建築健康保険組合 被告建築健保組合

被告日本毛織健康保険組合 被告日本毛織健保組合

被告社会保険診療報酬支払基金 被告支払基金

社会保険診療報酬支払基金審査委員会 審査委員会

健康保険法 健保法

地方公務員等共済組合法 地公共済法

社会保険診療報酬支払基金法 支払基金法

社会保険診療報酬請求書審査委員会規程 審査委員会規程

保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三二年厚生省令一五号) 療養担当規則

健康保険法の規定による費用の額の算定方法(昭和三三年厚生省告示一七七号) 算定方法告示

保険医療機関及び保険薬局の療養の給付に関する費用の請求に関する省令(昭和三三年厚生省令三一号) 費用の請求に関する省令

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、

被告国は、金三九万五九〇六円、

被告学校共済組合は、金一万九四一五円、

被告製鉄化工健保組合は、金四万〇八八〇円、

被告職員共済組合は、金二万二〇五〇円、

被告神戸製鋼健保組合は、金四万七二〇九円、

被告建築健保組合は、金三万〇三一五円、

被告日本毛織健保組合は、金二万九一二〇円及び右各金員に対する昭和四八年一〇月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告支払基金は、原告に対し、金二二五万三六四二円及びこれに対する昭和四九年八月三一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第1、2項及び第3項中被告支払基金に関する部分についての仮執行宣言。

二  被告学校共済組合、同日本毛織健保組合の本案前の答弁

1  原告の右被告らに対する訴を却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  主文と同旨

2  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  本案前の主張

1  被告学校共済組合

(一) 原告訴訟代理人の提出した本件訴状(第九八四号事件)には、被告の一名として、「公立学校共済組合兵庫支部」と表示されていたが、原告訴訟代理人は、その後昭和五五年五月一二日の本件口頭弁論期日において、右被告の表示を被告学校共済組合と改めた。しかし、同訴状の表示からは、右被告は、公立学校共済組合兵庫支部(以下「兵庫支部」という。)であると見るべきであるから、これを訂正して右被告を被告学校共済組合とすることは、訴訟の途中で当事者を変更したものにほかならず、新訴の提起の実質を有するものである。このような当事者の変更は許されないから、本件訴訟における右被告は兵庫支部であって被告学校共済組合ではない。

(二) ところで、兵庫支部は、兵庫県教育委員会に置かれた被告学校共済組合の従たる事務所であり、同被告から一部権限の委任を受けて所掌事務を行う一機関にすぎず、独立して法人格を有するものではなく、組合員及びその被扶養者の療養の給付に関する費用の支払義務者となりうるものではない。

したがって、原告の兵庫支部に対する訴は、当事者能力を欠く者を被告とする不適法な訴として、却下されるべきである。

2  被告日本毛織健保組合

(一) 原告訴訟代理人の提出した本件訴状(第九八四号事件)には、被告の一名として、「日本毛織印南支部健康保険組合」と表示されていたが、原告訴訟代理人は、その後昭和五五年五月一二日の本件口頭弁論期日において、右被告の表示を被告日本毛織健保組合と改めた。しかし、同訴状の表示、特に、日本毛織印南支部健康保険組合(もっとも、これは日本毛織健康保険組合印南支部の趣旨と解される。以下「印南支部」という。)の住所の表示からすれば、右被告は、印南支部であると見るべきであるから、これを訂正して右被告を被告日本毛織健保組合とすることは、訴訟の途中で当事者を変更したものにほかならず、新訴の提起の実質を有するものである。このような当事者の変更は許されないから、本件訴訟における右被告は印南支部であって被告日本毛織健保組合ではない。

(二) ところで、印南支部は、被告日本毛織健保組合から一部権限の委任を受けて所掌事務を行う同被告の一機関にすぎず、独立して法人格を有するものではなく、被保険者及びその被扶養者の療養の給付に関する費用の支払義務者となりうるものではない。

したがって、原告の印南支部に対する訴は、当事者能力を欠く者を被告とする不適法な訴として却下されるべきである。

3  被告国

原告訴訟代理人の提出した本件訴状(第九八四号事件)には、別紙目録(一)患者名欄(三一ページ)記載の岸本嘉一郎については、診療行為をした旨の主張がなく、当初、同人に関する診療報酬請求権の有無は審判の対象とはされていなかったところ、原告訴訟代理人は、その後昭和五五年一月二八日の本件口頭弁論期日において、請求の原因の訂正として、右岸本嘉一郎についての診療報酬の支払を求めるに至った。

ところで、診療報酬請求権は、医師が各患者を診療するごとに発生し、各診療に対応する診療報酬請求権は、それぞれ別個の訴訟物を構成するものと解されるから、原告の右請求の原因の訂正は、新訴の提起の実質を有するものである。したがって、右岸本嘉一郎に関する診療報酬の支払を求めるのに、従前の請求の原因の訂正として、その申立をすることは許されないものである。

4  被告支払基金

原告訴訟代理人の提出した本件訴状(第七七二号事件)には、別紙目録(二)患者名欄記載の上田徹、合志綱恭、近藤博(いずれも三〇ページ)、畠政夫(三二ページ)、松田和薫(五八ページ)、粕谷輝子(六〇ページ)、濱田祐子(六二ページ)、森婦二枝(七二ページ)、大山吉政(一二四ページ)の九名(以下「上田徹ら九名」という。)については、診療行為をした旨の主張がなく、当初、同人らに関する診療報酬請求権の有無は審判の対象とはされていなかったところ、原告訴訟代理人は、その後昭和五五年一月二八日の本件口頭弁論期日において、請求の原因の訂正として、上田徹ら九名についての診療報酬の支払を求めるに至った。右訂正は、前項被告国の本案前の主張と同様の理由により許されないものである。

5  被告学校共済組合、被告日本毛織健保組合の本案前の主張に対する原告の反論

本件訴状における当事者の表示、請求の原因記載の実体的関係、原告の意思、被告学校共済組合及び被告日本毛織健保組合が本件訴訟の当初から当事者として訴訟活動をし、原告のした訂正が右被告らの防禦方法を変更させる等の不利益をもたらすものでないこと等諸般の事情を総合的に考慮すれば、右被告らが当初から本件訴訟の当事者であると解される。したがって、原告のした訂正は、当事者の変更ではなく、単なる当事者の表示方法の訂正にすぎない。

二  請求の原因

1  当事者

(一) 原告は、健保法四三条の二、三、五、地公共済法六〇条、五七条一項三号、健保法四三条の五の各規定による保険医療機関小田整形外科医院の開設者であり、かつ、保険医である。

(二) 被告国は、健保法二四条一項の規定により健康保険組合の組合員でない被保険者らの保険を管掌するものであり、別紙目録(一)保険者名欄に「政」と表示されている分の同目録患者名欄記載の者を被保険者又はその被扶養者とする同法の保険者である。

(三) 被告職員共済組合及び被告学校共済組合は、いずれも地公共済法によって設立されたもので、同法五六条以下の規定により、被告職員共済組合は別紙目録(一)保険者名欄に「共兵41B」と表示されている分の、被告学校共済組合は同目録保険者名欄に「共兵1D」と表示されている分の同目録患者名欄記載の者らを組合員又はその被扶養者とする保険者である。

(四) 被告製鉄化工健保組合、被告神戸製鋼健保組合、被告建築健保組合、被告日本毛織健保組合は、健保法二三条以下の規定により、被告製鉄化工健保組合は別紙目録(一)保険者名欄に「組兵52G」と表示されている分の、被告神戸製鋼健保組合は同目録保険者名欄に「組兵12G」と表示されている分の、被告建築健保組合は同目録保険者名欄に「組兵131G」と表示されている分の、被告日本毛織健保組合は同目録保険者名欄に「組兵91G」と表示されている分の同目録患者名欄記載の者らを被保険者又はその被扶養者とする同法の保険者である。

(五) 被告支払基金は、支払基金法により、療養の給付を担当する者に対して診療報酬の迅速適正な支払をし、あわせて診療担当者より提出された診療報酬請求書(以下「請求書」という。)の審査を行うことを目的とし、各保険者から所定の支払委託金の預託を受け、診療担当者に対して診療報酬を支払い、請求書を審査することを主たる業務とする公法人である。

2  療養の給付

(一) 原告は、被告支払基金を除くその余の被告らの被保険者又は組合員若しくはその被扶養者である別紙目録(一)患者名欄記載の者らに対し、同人らが同目録頭書記載の診療月に同目録主たる症状欄上段記載の症状を訴えて来院した際、診察の結果、同欄下段の症状を認めたので、同目録傷病名欄記載の傷病に罹患しているとの診断をし、同目録診療実日数欄記載の日数に同目録診療内容欄記載の治療を含む診療を行った。

(二) 原告は、被告支払基金が診療報酬請求権の審査及び支払に関する事務の委託を受けている保険者の被保険者又は組合員若しくはその被扶養者である別紙目録(二)患者名欄記載の者らに対し、同人らが同目録(二)頭書記載の診療月に主たる症状欄上段記載の症状を訴えて来院した際、診察の結果、同欄下段の症状を認めたので、同目録傷病名欄記載の傷病に罹患しているとの診断をし、同目録診療実日数欄記載の日数に同目録診療内容欄記載の治療を含む診療を行った。

(三) 右各診療行為は、いずれも健保法四三条一項、四三条の六、地公共済法五六条一項、五九条六項、六〇条に規定する療養の給付として行われたものである。したがって、原告は、右療養の給付により、保険者である、被告支払基金を除くその余の被告らに対し、それぞれ別紙目録(一)保険者名欄に対応する同目録請求点数欄記載の診療報酬請求権を、被告支払基金に対し、別紙目録(二)請求点数欄記載の診療報酬請求権をそれぞれ取得した。

なお、右請求点数の金銭的評価は一点一〇円である。但し、被扶養者の場合の給付率は、昭和四八年九月分までは被保険者及び組合員の五割であり、同年一〇月以降はその七割である。

3  審査及び支払に関する事務の委託

被告支払基金を除くその余の被告らは、被告支払基金に対し、健保法四三条の九第五項、支払基金法一条の規定により、各保険医療機関からの療養の給付に関する費用の請求についての審査及び支払に関する事務を委託している。

4  診療報酬の請求と支払拒絶

原告は、前記2記載の診療報酬について請求書に診療報酬明細書(以下「明細書」という。)を添付し、それぞれに所定の事項を記載したうえ、被告支払基金の従たる事務所である兵庫県支払基金事務所(以下「兵庫県事務所」という。)に対し、別紙目録(一)及び(二)請求点数欄記載の療養の給付についての診療報酬の支払の請求を同目録(一)及び(二)頭書記載の診療月の翌月一〇日までにした。原告の右請求に対し、被告支払基金は、同目録(一)及び(二)診療内容欄、減点対象欄記載の各診療行為を減点事由欄記載の各事由により否認し、減点点数欄記載の各減点をする旨を原告に通知し、もって右減点々数に相当する別紙目録(一)及び(二)未払額欄記載の診療報酬の支払を拒絶した。

各被告ごとの未払額の総額は左のとおりである。

被告国       金三九万五九〇六円

被告学校共済組合   金一万九四一五円

被告製鉄化工健保組合 金四万〇八八〇円

被告職員共済組合   金二万二〇五〇円

被告神戸製鋼健保組合 金四万七二〇九円

被告建築健保組合   金三万〇三一五円

被告日本毛織健保組合 金二万九一二〇円

被告支払基金   金二二五万三六四二円

5  結び

よって、原告は、被告らに対し、健保法四三条の九第四項、地公共済法五七条三項、支払基金法一三条二項により、それぞれ右各金員及び右各金員に対する被告支払基金を除くその余の被告らについては本件訴状送達の日の翌日である昭和四八年一〇月二七日から、被告支払基金については本件訴状送達の日の翌日である昭和四九年八月三一日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  請求の原因に対する被告らの認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の(一)、(二)の各事実のうち、原告が別紙目録(一)及び(二)患者名欄記載の者らに対し、同目録(一)及び(二)傷病名欄記載の傷病に罹患しているとの診断をしたこと、同目録(一)、(二)診療実日数欄記載の日数に同目録(一)、(二)診療内容欄記載の診療行為を行ったことはいずれも不知。右患者らが同目録(一)及び(二)主たる症状欄の上段記載の症状を訴えて来院したこと、原告が診察の結果、同欄下段記載の症状を認めたことは否認する。

3  同2の(三)の第一段の事実は否認する。

4  同2の(三)の第二段の事実のうち、請求点数の金銭的評価が一点一〇円であることは認める(但し、請求の原因2の事実に関する認否については、別紙目録(一)患者名欄(三一ページ)記載の岸本嘉一郎に関する部分は除く。)。

5  同3の事実は認める。

6  同4の事実のうち、原告が、請求書に明細書を添付し、それぞれに所定の事項を記載したうえ、被告支払基金の従たる事務所である兵庫県事務所に対し、別紙目録(一)及び(二)請求点数欄記載の請求を同目録(一)及び(二)頭書記載の診療月の翌月一〇日までにしたこと、原告の右請求に対し、被告支払基金が、同目録(一)及び(二)診療内容欄、減点対象欄記載の各診療行為を減点事由欄記載の各事由により否認し、減点々数欄記載の各減点をする旨を原告に通知して右減点点数に相当する同目録(一)及び(二)未払額欄記載の診療報酬の支払を拒絶したことは認める(但し、請求の原因4の事実に関する認否については前記岸本嘉一郎及び上田徹ら九名に関する部分は除く。)。

四  被告らの主張

1  保険者に対する請求の能否

保険者が、被告支払基金に対し、診療報酬の審査及び支払に関する事務を委託している場合、診療報酬の請求の相手方は被告支払基金に限られ、保険者に対し、診療報酬の支払を請求することは、原則として許されないと解すべきである。その理由は、左記のとおりである。

(一) 保険者は、通常専門的知識ないし経験を有していないので、被告支払基金によってのみ診療報酬の請求の審査及び支払に関する事務が処理されることは、右審査及び支払の迅速、適正化をはかるという公益上の要請にかなっている仮に保険医療機関の保険者に対する直接請求を容認することになれば、被告支払基金による審査を不能にさせ、かつ、支払事務を繁雑、非能率に至らせて、保険者はもちろん、一般医療機関に対しても著しい不利益を招来することとなる。

(二) 法律上、被告支払基金に対する審査及び支払に関する事務の委託は任意的ではあるが、現実には国民健康保険の保険者である市町村あるいは国鉄共済組合などを除くほとんどすべての保険者が右委託をしており、右委託が一つの制度として定着している。

(三) 被告支払基金における診療報酬の支払資金は、毎月あらかじめ保険者から受領する委託金と審査の結果に基づいて保険者が追加して委託する金員を原資とするもので、通常被告支払基金が支払能力を欠く事態になることはありえず、保険医療機関に対する診療報酬の支払は、制度上保障されている。したがって、保険医療機関が直接保険者に対して診療報酬の支払を請求できないとしても、保険医療機関に特段の不利益はない。

(四) 被告支払基金は、各種保険者からの委託事務の処理として窓口を一本化しており、このことにより診療報酬に関する所得税の源泉徴収義務が被告支払基金に課せられている(所得税法二〇四条一項三号)。

(五) 被告支払基金が保険者から審査及び支払に関する事務の委託を受けたときは、被告支払基金は、保険医療機関からの診療報酬の請求に対し、みずから審査したところに従い、自己の名において支払をする法律上の義務を負っている(支払基金法一三条一項二号、最高裁判所昭和四八年一二月二〇日第一小法廷判決参照)。

(六) 前述のような被告らの解釈は、現実に保険医療機関が被告支払基金に対してのみ診療報酬を請求し、あえて保険者に対しては請求していない実務にもかない、更に、昭和二八年七月一六日の各都道府県民生部(局)保険課(部)長・各社会保険出張所長宛の厚生省保険局健康保険課長通知(保険発第一五六号)の趣旨とも一致し、その正当なることは疑いを容れない。

以上の理由により、保険者から被告支払基金に対して審査及び支払に関する事務の委託があった場合には、保険医療機関の診療報酬請求権は、被告支払基金に対するものに転化し、保険者は、診療報酬について第一次的な支払義務を免れるものと解すべきである。したがって、原告の被告支払基金を除くその余の被告らに対する請求は棄却されるべきである。

2  診療報酬請求権の要件事実、主張立証責任

(一) 健保法四三条の九第一項、地公共済法五七条三項によれば、保険医療機関が、療養の給付に関し、保険者に請求しうる診療報酬は、「療養に要する費用」であることを要する。そして、右「療養に要する費用」とは、現に療養に要した費用ではなく、健保法四三条一項、地公共済法五六条一項所定の「療養の給付」をするために客観的に必要があると認められた費用でなければならない。

(二) ところで、健保法四三条の四、四三条の六、地公共済法六〇条によれば、保険医療機関の療養の給付は、保険医が命令の定めるところにより診療に当たるものであるほか、命令の定めるところにより担当されるものでなければならないとされ、右法律の委任に基づいて定められた命令が療養担当規則であり、療養の給付の範囲は、同規則一条の定めるとおりに限定されている。したがって、診療報酬を請求しようとする保険医療機関は、診療報酬請求権の発生原因事実として、療養の給付の内容たる保険医の具体的な診療が、療養担当規則の定めるところによって担当されたものであることを主張立証しなければならないものである。

(三) そして、療養担当規則二条二項によれば、右療養の給付は、患者の療養上妥当適切なものでなければならないと規定され、かつ、同規則一二条によれば、保険医の診療は、一般に、医師として診療の必要があると認められる疾病に対して、適確な診断をもととし、患者の健康の保持増進上妥当適切に行わなければならないものと規定され、同規則二〇条には更に具体的な方針が掲げられ、個々の注射あるいは処置等についてもその行いうる範囲が規定されている。そして、診断が適確であるかどうか、治療が妥当適切であるかどうかは、当該診療がされた当時における一般的な医療水準に基づいて判定されるべきである。

(四) したがって、原告において、その診療が療養担当規則の定めるところにより行われたものであることを主張、立証するためには、基本的には

(1) 一般に、医師として診療の必要があると認められる傷病等が存在したこと

(2) 右傷病等に対し、原告が、当時の医療水準に鑑みて適確な診断を行ったこと

(3) 右傷病等に対する原告の治療が、当時の医療水準に鑑みて患者の健康の保持増進上妥当適切に行われたものであること

の三点について主張、立証しなければならない。

3  本件診療の疑問点

(一) 病名について

そもそも、診療録及び明細書に記載すべき病名は、適確な診断に基づき、一般に医師として診療の必要があると認められる疾病の実態を判然と明示するものでなければならない。しかるに、原告の唱える股関節周囲炎という病名は、わが国における医療に関する専門教科書的書物(医学成書)に全く記載されておらず、当時の整形外科の一般的な医療水準にある医師にとって股関節周囲炎がどのような実態を有する疾病であるのかを理解することは全く不可能であった。したがって、右病名を見ても、一般に医師として診療の必要があると認められる疾病が存在したのか、そしてまた、当時の医療水準に鑑みて適確な診断が行われたのかが全く不明である。

(二) 股関節周囲炎の頻度について

(1) 原告のいう股関節周囲炎の頻度は、毎月、原告の社会保険診療報酬の請求にかかる患者総数の四〇パーセントを常に超えている。これに対し、例えば神戸大学医学部整形外科における肩関節周囲炎の頻度は、昭和四〇年から四四年の同整形外科外来患者総数の一・七パーセントを占めるに過ぎない。

(2) 右の例の比較によるだけでも、原告の股関節周囲炎の頻度は異常に高く、この点からしても原告の診断の適確性は、甚だ疑問であるといわなければならない。

(三) 関節周囲炎について

(1) 関節周囲炎とは、肩関節周囲炎及び肘関節の上腕骨内・外上顆炎等を総称するものである。

そして、肩関節周囲炎とは、肩胛関節の周囲、すなわち、滑液嚢、腱、腱鞘又は結合織等に炎症の存在する疾病である滑液嚢炎、腱炎、腱鞘炎及び結合織炎等の総称である。ところで、肩関節周囲炎という病名は、右各疾病が、いまだ原因不明のために各独立のものとして確立されなかった当時に、概括的に常用されていたが、右のように既に原因の明らかな各独立のものとされた現在においては、習慣的に用いられているにすぎないものである。

(2) ところで、股関節の周囲においても、炎症は存在しうるから、股関節周囲炎と名付けるべき疾病が存在しえないわけではない。

しかし、一般には、関節周囲炎の症例は肩関節周囲炎が大多数であり、肘関節周囲炎がこれに次ぎ、その他の関節周囲炎は極めて少ない。しかも、原告のいう股関節周囲炎は、その炎症の存在及び部位が全く不明であって、その実態が甚だ疑わしいものである。そして、股関節と肩関節とは、解剖学上の形状、複雑性、構造等において際立った差異を呈していることを合わせ考えれば、原告のいう股関節周囲炎を肩関節周囲炎と同一に論ずることはできない。

(3) 以上のとおり、原告の唱える股関節周囲炎という病名は、一体いかなる疾病を予定しているかは、余人の理解しえないものである。ただ、原告の理論を善意に解すれば、股関節周囲炎は、外科的疾患のみならず、内科的疾患をも含め、およそ人間の罹患するすべての疾患を包含し、かつ、右疾患の原因は股関節周囲組織、特に梨状筋に存するということになる。しかし、右の理論は、現在はもちろん、近い将来の医学の進歩を考慮したうえでも、もはや医学上の理論として評価に値せず、荒唐無稽の空論というべきである。

(四) 原告の治療方法について

(1) 原告は、股関節周囲炎の治療方法として、圧痛のある梨状筋部に副腎皮質ホルモン系薬剤(以下、「ステロイド剤」という。)を注射している。

(2) ステロイド剤は、速効性を持つ点で重篤の患者の治療に福音をもたらしたが、多種多様の副作用(細菌感染に対する抵抗力の低下、血管の出血傾向、大腿骨無腐性壊死、脂胞沈着による満月様顔貌など)を患者に招くことがあるので、「副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン及び性腺刺激ホルモンの使用基準」厚生省保険局長通達(昭和三七年九月二四日保発第四二号)により、ステロイド剤の使用はできる限り控え、使用する場合も局所的使用ですむときにはなるべく全身的使用を避け、少量短期間の使用に努めるべきことなど、ステロイド剤の使用について謙抑的な使用基準を定めている。右のような基準は、医学上まさに適切なものであり、保険医療機関の遵守すべき基準であるということができる。

(3) しかるに、原告は、本件診療報酬の請求にかかる股関節周囲炎の患者全員に対し、ステロイド剤を安易に多用している。このような治療は右使用基準にも医学常識にも反するものであり、医学上不当なものといわなければならない。

(4) 更に、その注射部位は、坐骨神経の走行する付近であるため、注射針が梨状筋を外れ、坐骨神経に命中する危険があり、その場合には坐骨神経を物理的に損傷したり患者に激痛を与えたりすることがある。また、ステロイド剤は、細菌感染に対する抵抗力を弱める副作用があるため、臀部の奥深く存在する梨状筋に対して注射された際に、万一細菌が侵入すると、処置の仕様がなくなるという危険が生ずるのである。

元来、梨状筋に圧痛を認めて同所に注射すること自体が奇異な治療行為であるうえ、前述のとおり危険な部位に、患者に苦痛を与えるような注射を打つことは、もはや治療行為として正当視できないものである。

(5) 以上のとおり、原告の治療方法は、現在の医学常識上妥当適切な治療行為であるということはできない。

五  被告らの主張に対する原告の反論

1  診療報酬の支払義務者

健保法及び地公共済法によれば、保険者は、保険医療機関から療養の給付に関する費用の請求を受けたときは、保険医療機関から提出された請求書及び明細書を療養担当規則及び算定方法告示などに照らして審査し、右審査に基づいてこれを支払うものとされ、右審査及び支払に関する事務を契約により被告支払基金に委託することができるものとされている。そして、被告支払基金が支払義務を負うのは、保険者の右審査及び支払事務の委託に基づくもので、その委託をするかどうかは保険者の自由意思に委ねられているうえ、保険医療機関が右委託に関与する機会は与えられていない。

このような法の規定からすれば、被告ら主張の理由をもってしても、保険者の支払義務を否定することはできないというべきである。

2  診療報酬請求権の要件事実、主張立証責任

(一) 診療報酬請求権の要件事実については、健保法上明確な規定が存在するわけではない。したがって、訴訟追行上の当事者の公平、紛争の迅速な解決、更に、権利はなるべく主張し易くすることが望ましいという衡平法的配慮等の諸原理から、健保法の各法条の解釈及び法条相互の関係を考慮してこれを決定すべきものである。

(二) 被告らの主張する各法条を権利根拠規定と解することは条文そのものが不明確であり、抽象的にすぎることから、当事者の公平を欠き、挙証責任分配の原理に反する。

(三) 本件においては、被告支払基金の審査は原告の診療内容そのものに立ち入り、これを適応と認められないとして否認しているのであるから、訴訟追行上の当事者間の公平、また、具体的には療養担当規則の抽象的規定の面からいっても、当然被告らにおいて、原告のした診療内容がなぜ適応と認められないのかを主張立証すべき責任があるといわなければならない。したがって、診療報酬請求権の要件事実は、(1)保険医療機関が、(2)療養受給有資格者に対し、(3)療養の給付をしたという事実で足り、療養担当規則に反するということは、抗弁事実である。

3  股関節周囲炎の概念及び治療方法

(一) 股関節周囲炎の概念

腰痛及び股関節周辺の疼痛に関しては、整形外科の分野において、現在、十分に解明されていないものがあり、この分野の解明は、整形外科医に課せられた一つの課題であるところ、原告は、日常の診療を通して既成の腰痛の概念で処理できない下部疼痛を伴う一定の疾患群に気づき、これを整理し系統立てて考えて治療した結果、一定の良好な治療効果を得た。そこで、原告は、右疾患群について「股関節周囲炎」という診断名をつけ、その診療を行ってきた。

そもそも、躯幹又は下肢に及ぶ広範な筋肉痛等が股関節周囲組織(圧痛のある梨状筋部)へのステロイド剤の注射により著明に軽快することがあり、しかも非常に多い。この場合、股関節周囲組織が刺激状態にあり(臨床的には炎症)、下肢や躯幹には反射性筋収縮が生じていると解釈できる。持続的な反射性筋収縮では筋腹に圧痛を認める。このような状態にある筋肉は疲れやすく、伸展や収縮でも痛みを生じることがあり、腱付着部が過敏になることもある。かかる状態は腱筋症あるいは反射性腱筋症と呼ばれる。

この用語を用いれば、股関節周囲炎とは、「股関節周囲組織に刺戟中枢を有する躯幹および下肢の反射性腱筋症」と定義することができる。

(二) 股関節周囲炎の治療

(1) 注射療法

刺戟中枢に対する局注療法を行う。通常、梨状筋部に局注するのが有効であるが、必要に応じ、股関節部の他の圧痛部位及び膝窩部にも局注する。薬剤は、普通シヱリゾロン二五ミリグラムあるいはプレドニゾロン二五ミリグラムあるいはケナコルトA一〇ミリグラム等を用いる。通常ステロイド剤の局注療法は、週一回の割合で行ない、一度にせいぜい二ヶ所以内である。疼痛の激しい場合には、年令体格を考慮してケナコルトA四〇ミリグラムを用いることもあり、長針と一CC用注射器を使用する。なお、ステロイド剤と低濃度局麻剤(〇・五%キシロカイン等)を混合して使用するときは、五CCの注射器が適当である。特に注意すべきことは、厳重な消毒および血管内に薬剤を注入しないことである。筋肉のけいれん、腓返り等があれば、コ・カルボキシラーゼの静注も併用する。

(2) けん引療法

電動式のけん引装置を用い、間けつ的に下肢をけん引する。腋窩部にベルトをかけて固定し、腰臀部は可動板上におくが、股関節を軽度屈曲し、長軸方向にけん引するのが有効である。大体の目安として、一側下肢をけん引する力は一五キログラムである。適応は刺戟中枢の活性が比較的低下している症例であり、一応寝返りが楽にできる患者を対象とし、更に、年令や合併症(高血圧症等)をも考慮する。けん引療法の後に極超短波療法を併用するが、他の理学療法として低周波療法を行うこともある。

(3) 薬物療法

内服薬としては、消炎酵素剤、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤ビタミン剤等を年令、体格、胃腸障害等を考慮して投与する。その他、低血圧症候群が同時に認められれば、注射療法による腱筋症の回復を有効にするため、エホチールを投与することもある。

外用薬としては、スチックゼノールをしばしば用い、時にはゼラップ等の湿布剤を用いることもある。

4  股関節周囲炎の概念及び治療の正当性について

(一) 病名について

股関節周囲炎という病名は、わが国において使用されており、また、フランスの整形外科専門誌においても記載されており、当時の整形外科の分野における一般的な医療水準にある医師にとって右病名は理解不可能なものではない。

(二) 股関節周囲炎の頻度について

被告らは、原告の股関節周囲炎の頻度が高率であるとして原告の診療内容の妥当性に疑問を呈するが、疾患別頻度によって診療内容を云々することは、それ自体根拠がなくかつ、無意味である。

(三) ステロイド剤の使用について

(1) 原告のステロイド剤の筋注は、全身的効果を期待したものではなく、その量も少量で局所的に使用されているものであり、注射量にしても、注射回数一回が約四〇パーセント、同二回以下が約七〇パーセント、同三回以下が約八〇パーセントで、被告らがいうようなステロイド剤の乱用、多用による副作用の出現など起こり得ないしまた、起こってもいない。むしろ、原告主張の注射部位を選択することにより、従来患者に使用されていたステロイド剤の量より少量の使用で済むことになる。また、ステロイド剤の使用禁忌である結核、糖尿、緑内症患者等への使用を避けるなどステロイド剤の副作用を考慮して慎重に使用しているので、これらの疾患の増悪を来たした例はない。

第三証拠関係《省略》

理由

一  本案前の申立について

1  被告学校共済組合、被告日本毛織健保組合は、原告訴訟代理人の提出した本件訴状(第九八四号事件)には、被告として兵庫支部及び印南支部をそれぞれ表示されていたところ、原告訴訟代理人は、その後、右被告らの表示を被告学校共済組合及び被告日本毛織健保組合と改めたが、これは訴訟の途中で当事者を変更したものにほかならず、このような当事者の変更は許されない旨主張するので、検討する。

(一)  原告代理人が昭和四八年一〇月一八日提出した本件訴状(第九八四号事件)には、被告の一名として、「公立学校共済組合兵庫支部」との表示があり、その肩書に「神戸市生田区下山手通四丁目五六番地」という住所の記載があり、被告の表示に続いて「右代表者理事長白井康夫」という記載があること、原告訴訟代理人は、昭和四九年二月一二日の第二回口頭弁論期日において右被告について同訴状を陳述した後、同年六月十七日の第三回口頭弁論期日において同年六月一〇日付準備書面に基づいて右被告の表示を被告学校共済組合と訂正する旨を陳述したこと、法務大臣作成の昭和四九年二月一二日付指定代理人の指定書には、右被告について「公立学校共済組合」という記載があることは、本件訴訟上明らかである。

また、被告学校共済組合の所在地が東京都新宿区南元町二三であり、当時の代表者理事長が白井康夫であったことは、本件記録上明らかであり、更に、弁論の全趣旨によれば、兵庫支部が法人格を有しないことは明らかである。

以上述べたところによれば、原告は、被告学校共済組合を相手方として、本件訴訟を提起する意思があり、かつ、本件訴訟の実際の経過も右当事者間においてされたものであるから、本件訴訟は、右両者間に係属しているものというべきである。したがって、原告が右被告の表示を被告学校共済組合と訂正したのは、単なる表示の訂正であって適法であるというべきである。

(二)  原告代理人が昭和四八年一〇月一八日提出した本件訴状(第九八四号事件)には、被告の一名として、「日本毛織印南支部健康保険組合」との表示があり、その肩書に「兵庫県加古川市米田町船頭四四〇」という住所の記載があり、被告の表示に続いて「右代表者理事長安井勤」という記載があること、原告訴訟代理人は、昭和四九年二月一二日の第二回口頭弁論期日において右被告について同訴状を陳述した後、同年六月一七日の第三回口頭弁論期日において同年六月一〇日付準備書面に基づいて右被告の表示を被告日本毛織健保組合と訂正する旨を陳述したこと、法務大臣作成の昭和四九年二月一二日付指定代理人の指定書には、右被告について「日本毛織健康保険組合」という記載があることは、本件訴訟上明らかである。

また、被告日本毛織健保組合の所在地が神戸市中央区明石町四七番地であり、当時の代表者理事長が安井勤であったことは、本件記録上明らかであり、更に、弁論の全趣旨によれば、印南支部が法人格を有しないことは明らかである。

以上述べたところによれば、原告は、被告日本毛織健保組合を相手方として、本件訴訟を提起する意思があり、かつ、本件訴訟の実際の経過も右当事者間においてされたものであるから、本件訴訟は、右両者間に係属しているものというべきである。したがって、原告が右被告の表示を被告日本毛織健保組合と訂正したのは、単なる表示の訂正であって適法であるというべきである。

(三)  以上の次第で、被告学校共済組合、同日本毛織健保組合の右主張は採用することができない。

2  被告国は、原告訴訟代理人の提出した本件訴訟(第九八四号事件)には、別紙目録(一)患者名欄(三一ページ)記載の岸本嘉一郎に関する診療報酬の支払を求める記載がなかったところ、原告訴訟代理人は、昭和五五年一月二八日の本件口頭弁論期日に請求の原因の訂正として、右岸本嘉一郎についての診療報酬の支払を求めるに至ったが、右請求の原因の訂正は、新訴の提起の実質を有するもので、これを従前の請求の原因の訂正として、申し立てることは許されない旨主張する。

また、被告支払基金は、原告訴訟代理人の提出した本件訴状(第七七二号事件)には、別紙目録(二)患者名欄記載の上田徹ら九名に関する診療報酬の支払を求める記載がなかったところ、原告訴訟代理人は、前記口頭弁論期日に請求の原因の訂正として、上田徹ら九名についての診療報酬の支払を求めるに至ったが、右請求の原因の訂正は、新訴の提起の実質を有するもので、これを従前の請求の原因の訂正として、申し立てることは許されない旨主張する。

そこで、原告の請求の変更の許否について判断するのに、原告は、当初、右岸本嘉一郎及び上田徹ら九名に関する診療報酬の支払を求めていなかったところ、昭和五五年五月一二日の本件口頭弁論期日において右の者らに関する診療報酬の支払を求めることについて請求の原因を追加変更したことは、本件訴訟上明らかである。しかし、本件請求の基礎である被保険者又は組合員若しくはその被扶養者に対して療養の給付をしたという生活事実は前後同一であって請求の基礎に変更があったものとは認められない。また、原告が請求を変更したことにより、新たな証拠調等を必要とせず、訴訟手続を著しく遅滞させるものとは認められない。

以上述べたところによれば、原告のした請求の変更は許されるべきものであるから、被告国、同支払基金の異議は理由がない。

二  本案について

1  当事者間に争いのない事実等

請求の原因1及び3の事実、同4の事実のうち、原告が、請求書に明細書を添付し、それぞれに所定の事項を記載したうえ、被告支払基金の従たる事務所である兵庫県事務所に対して別紙目録(一)及び(二)請求点数欄記載の療養の給付についての診療報酬の支払の請求を同目録(一)及び(二)頭書記載の診療月の翌月一〇日までにしたこと、右請求に対し、被告支払基金は、同目録(一)及び(二)診療内容欄、減点対象欄記載の各診療行為を減点事由欄記載の各事由により否認し、減点々数欄記載の各減点をする旨原告に通知して右減点々数に相当する同目録(一)及び(二)未払額欄記載の診療報酬の支払を拒絶したことは、当事者間に争いがない(但し、同4の事実については岸本嘉一郎及び上田徹ら九名に関する部分は除く。)。

また、右争いのない事実と《証拠省略》によれば、原告が岸本嘉一郎及び上田徹ら九名に関しても、別紙目録(一)及び(二)記載の他の患者と同様同目録記載の診療報酬の支払の請求をし、被告支払基金が同目録(一)及び(二)記載のとおり減点及び診療報酬の支払を拒絶したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  本件に関する法令上の制度の概要

(一)  健保法関係

(1) 健康保険では、保険者が被保険者の業務外の事由による傷病等及びその被扶養者の傷病等に関し、保険給付をすることとし(健保法一条)、被保険者は、その傷病等に関し都道府県知事の指定を受けた保険医療機関又は保険薬局等で診察、薬剤又は治療材料の支給、処置、手術、その他の治療等の療養の給付を受ける(同法四三条一項、三項)。

(2) 保険医療機関は、都道府県知事の指定を受けた病院又は診療所であり(同法四三条の三)、保険医療機関において診療に従事する医師等は、都道府県知事の登録を受けた保険医等であることを要し(同法四三条の二、四三条の五)、保険医療機関は、命令の定めるところにより療養の給付を担当しなければならず(同法四三条の四第一項)、保険医は、命令の定めるところにより健康保険の診療に当たらなければならない(同法四三条の六第一項)。右各規定に基づいて定められているのが療養担当規則であり、同規則のうち本件に関係する規定は後記(三)のとおりである。

(3) 保険医療機関は、その療養の給付に関し、療養に要する費用の額から一部負担金(同法四三条の八)に相当する額を控除した額を保険者に請求することができ(同法四三条の九第一項)、右療養の給付に関し請求することができる費用の額は、厚生大臣の定めるところにより算定する(同法四三条の九第二項)。右厚生大臣の定めが算定方法告示であり、同告示は、その別表(診療点数表)に定める点数にその単価一〇円を乗じて算定するものとしている。

(4) 保険者は、保険医療機関より療養の給付に関する費用の請求があったときは、療養担当規則、算定方法告示等に照らしてこれを審査したうえ支払うものであるが、右の審査及び支払に関する事務を、被告支払基金との契約により同基金に委託することができる(同法四三条の九第四項、第五項、支払基金法一三条二項、三項)。

(5) その他保険医療機関の療養の給付に関する費用の請求について必要な事項は、命令により定めることとされ(健保法四三条の九第六項)、右法律の委任に基づいて費用の請求に関する省令(昭和五一年厚生省令三六号「療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令」により廃止)が定められていた。費用の請求に関する省令の内容は次のとおりである。

保険医療機関が、療養の給付に関し費用を請求しようとするときは、請求書に明細書を添付して、これを当該保険医療機関所在地の都道府県の社会保険診療報酬支払基金事務所を経由して当該保険者に提出する。

請求書には、所定要式により保険者ごとに、被保険者・被保険者であった者・被扶養者、入院・入院外の区分により件数、診療実日数、点数、一部負担金の額、請求金額を記入するものとされ、明細書には、所定要式により療養の給付を受けた者(氏名・姓別・生年月日)ごとに、傷病名、診療開始日、診療料、投薬料、注射料等の項目を細分して療養の給付の内容を記入するものとされている。請求書は各月分について翌月一〇日までに基金に送付されなければならない。

(6) 被扶養者が、保険医療機関で療養を受けたときは、保険者は、被保険者に対し、家族療養費を支給し、家族療養費の額は、昭和四八年九月分までは原則として療養に要する費用の額の一〇〇分の五〇に相当する額であり、同年一〇月分以降は同じく一〇〇分の七〇に相当する額である。この場合の療養に要する費用の額の算定方法は、前記被保険者の例による。この場合には、保険者は、被扶養者が当該保険医療機関等に支払うべき療養に要した費用について家族療養費として被保険者に対して支給すべき額の限度で当該保険医療機関に支払うことができ、これを支払った場合は、被保険者に対し家族療養費を支払ったものとみなされる。家族療養費の支給及び被扶養者の療養に関しては、前記被保険者の療養の給付及びそれに要する費用の請求、支払に関する規定が準用される(同法五九条の二)。

(二)  地公共済法関係

地公共済法は、組合員及びその被扶養者に対し、療養の給付及び家族療養費の支給をすることとし、保険医療機関等は健保法及びこれに基づく命令の規定の例により、組合員及びその被扶養者の療養並びにこれに係る事務を担当し、又は診療等に当らなければならないとされ(地公共済法六〇条)、その他療養に要する費用の算定方法、その請求及び支払に関する制度は、大要前記健保法における制度と同一である(地公共済法四二条、五三条、五六条ないし五九条、支払基金法一条、一三条)。

(三)  療養担当規則

(1) 療養担当規則によれば、保険医療機関の療養の給付は、被保険者及びその被扶養者の療養上妥当適切でなければならず(同規則二条二項)、保険医の診療は、一般に医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対し、適確な診断をもととし、患者の健康の保持増進上妥当適切に行われなければならない(同規則一二条)と規定されている。また、同規則は、特殊療法及び厚生大臣の定める医薬品以外の医薬品の施用を原則的に禁止し(同規則一八条、一九条)、更に、診療の具体的方針として診察、投薬、処方せんの交付、注射、手術及び処置、理学的療法、収容の指示等についての原則的方針を列挙し、その他特定の疾病の治療、特定の薬剤による治療等について厚生大臣の定めるところによるほか同規則二〇条各号に定めるところによると規定している(同規則二〇条)。

(2) 同規則二〇条のうち、本件に関係すると考えられる規定は左記のとおりである。

① 診察 各種の検査は、診療上必要があると認められる場合に行い、研究の目的をもって行ってはならない。

② 投薬 投薬は、必要があると認められる場合に行い、治療上一剤で足りる場合には一剤を投与し、必要があると認められる場合に二剤以上を投与する。同一の投薬はみだりに反覆せず、症状の経過に応じて投薬の内容を変更する等の考慮をしなければならない。栄養、安静、運動、職場転換その他療養上の注意を行うことにより治療の効果を挙げることができると認められる場合は、これらに関し指導を行い、みだりに投薬してはならない。

③ 注射 注射は、経口投与によって胃腸障害を起すおそれがあるとき、経口投与をすることができないとき、経口投与によっては治療の効果を期待することができないとき、特に迅速な治療の効果を期待する必要があるときその他注射によらなければ治療の効果を期待することが困難であるときに行う。内服薬との併合は、これによって著しく治療の効果を挙げることが明らかな場合又は内服薬の投与だけでは治療の効果を期待することが困難である場合に限って行い、混合注射は、合理的であると認められる場合に行う。

④ 処置 処置は、必要の程度において行う。

⑤ 理学的療法 理学的療法は、投薬、処置又は手術によって治療の効果を挙げることが困難な場合であって、この療法がより効果があると認められるとき、又はこの療法を併用する必要があるときに行う。

⑥ 副腎皮質ホルモン 副腎皮質ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン及び性腺刺激ホルモンによる治療は、同規則二〇条各号に定めるところによるほか、厚生大臣の定めるところによる。

(3) 《証拠省略》によれば、厚生省の定めるステロイド剤の使用基準は、大要、左記のとおりであることが認められる。

① 使用方針

ステロイド剤の使用にあたっては、まず適応の有無を慎重に決定すべきで、他の一般療法が無効な場合あるいはそれのみで十分に治療効果が認められない場合に使用すべきである。しかし、病状が重篤な場合には、ときには救命的に作用するものであるから、その使用に時を逸してはならない。また、ステロイド剤は、しばしば副作用を伴うものであるから、局所的使用(軟膏塗布、点眼、関節腔内注入、皮内注射等)ですむときには、なるべく全身的な使用(内服、静注、筋注等)を避けるべきである。また、全身的使用を必要とする場合には、常に副作用の出現に対し、十分な配慮と監視を行い、なるべく少量、短期間ですむように努め、長期使用のやむを得ない場合も他の治療方法を併用して常に減量するようにし、また、できれば中止するように努めるべきである。長期使用後には、患者の下垂体副腎皮質機能低下の存在を考えて十分注意しなければならない。

② 使用方法及び使用量

使用基準は、各疾患別に使用方法及び使用量を記している。右は、その大体の基準であって、幼少児に対しては適宜減量の必要があるし、また、場合によっては標準よりかなり大量の、又は長期間の使用を必要とする場合もある。右の例のうち、本件に関すると思われる関節周囲炎についての使用方法及び使用量は、次のとおりである。

使用方法として、関節周囲及び関節内に注射し、使用量は、一日量プレドニゾロンであれば五ないし一〇ミリグラムを一週一回で三ないし五週間投与する。

(四)  支払基金法関係

(1) 被告支払基金は、保険者が健保法等社会保険各法の規定に基づいてする療養の給付について療養の給付を担当する者に対して支払うべき費用の迅速適正な支払をし、あわせて診療担当者(保険医療機関等)より提出された請求書の審査を行うことをもって目的とし(支払基金法一条)、各保険者から所定の支払委託金の預託を受け、診療担当者から提出された請求書を審査し、右審査に基づき厚生大臣の定めるところにより算定した金額を支払うことを主たる業務とする公法人である(同法二条、一三条)。

(2) 被告支払基金は、右審査を行うため、各都道府県に置かれた従たる事務所ごとに審査委員会を設け、その委員は、診療担当者を代表する者、保険者を代表する者及び学識経験者のうちから、それぞれ同数を幹事長が委嘱する(同法一四条)。

審査委員会は、請求書の審査のため必要があると認めるときは、都道府県知事の承認を得て、当該診療担当者に対し、出頭及び説明を求め、報告をさせ、又は診療録その他の帳簿書類の提出を求めることができ(同法一四条の三第一項)、当該診療担当者が、正当の理由がなく、右審査委員会の要求を拒んだ場合、被告支払基金は、都道府県知事の承諾を得てその者に対する診療報酬の支払を一時差し止めることができる(同法一四条の四)。

審査委員会に関し、支払基金法に定めるもののほか、必要な事項は命令で定めることとし、右法律の委任に基づいて審査委員会規程が定められている(同法一四条の六)。

(3) 被告支払基金の基本金は一〇〇万円で(支払基金法四条)不可避の理由で診療報酬の支払に不足を生じた場合を除いて、その使用は禁止されている(同法一八条)。また、被告支払基金は、起債を禁止され、収入としては、各保険者から受領する事業執行費のみが予定されている(同法一七条、一九条)。診療報酬の支払資金は、毎月保険者から受領する委託金をもって充てられ、右委託金は、過去三か月の診療報酬の最高額のおおむね一・五か月分とされている(同法一三条一項)。

(4) 《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

被告支払基金の従たる事務所である兵庫県事務所の審査委員会は、診療担当者、保険者、学識経験者の各代表それぞれ二九名、合計八七名で構成され、審査委員は、すべて医師等医学の専門家であり、専従の専任審査委員と非専従の審査委員が存在する。審査は、審査委員会規程二条二項に基づく第一次審査と第二次審査に分けられ(審査事務取扱規程準則七条)、第一次審査以前に支払基金事務職員による請求書及び明細書の事務点検が行われる。右事務点検により請求書及び明細書の記載もれ、誤記、意味不明なもの、固定点数の誤り、計算まちがい、保険給付外の疾病について保険診療を行っていないか等の点検が行われ、その後に広義の意味での第一次審査に回される。広義の意味での第一次審査は、審査委員会規程二条二項により行われるもので、専任審査委員によるいわゆる専任下調べと狭義の意味での第一次審査に分けられる。専任下調べの段階では、特に問題がなく狭義の意味での第一次審査に上程する必要のない請求と右第一次審査に提出すべき請求とを振り分け、前者とされた請求については、審査は事実上この段階で終了する。狭義の意味の第一次審査は、個々の審査委員が書面審査を基調として請求書及び明細書を療養担当規則等に照らして審査するものである。右第一次審査により問題とされたものは、小委員会にかけられ、更に、このうち特に問題となったものが第二次審査の対象とされ、ここでは全審査委員の合議による審査がされる。右審査委員会の審査については、被告支払基金内部の手続として診療担当者からする不服申立などの法令上の救済手続は存在しないが、慣例上、再審査請求、審査相談(専任審査委員との面接)等が一応の不服申立方法として存在している。

審査委員会による審査の結果、診療内容が療養担当規則に合致せず、あるいは請求点数が算定方法告示に照らして誤りである等の決定がされた場合は、いわゆる増減点措置をとり、その旨増減点通知書により診療担当者に通知される。同通知書には、診察料、投薬料、注射料等のいずれが減点されたのかを明示するため増減点箇所が記載され、右増減点箇所がどのような事由に基づき、減点されたのかを明示するため、A 適応と認められないもの、B 過剰と認められるもの、C 重複と認められるもの、D 担当規則に反するもの等A項ないしK項の九項目にわたるいずれかの減点事由が記号で示される。

(5) なお、《証拠省略》を総合すれば、国民健康保険の保険者である市町村及び国鉄共済組合を除くほとんどすべての保険者が被告支払基金に対し、診療報酬請求の審査及び支払に関する事務を委託していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  診療報酬請求の相手方

(一)  被告らは、保険者が診療報酬請求に関する審査及び支払に関する事務を被告支払基金に委託している場合、第一次的な支払義務者は被告支払基金であって、保険医療機関が直接保険者に対し診療報酬を請求することは許されない旨主張するので判断する。

(二)  前述した被告支払基金に関する法制度によれば、被告支払基金は、保険者から診療報酬の請求に対する審査及び支払に関する事務の委託を受けたときは、診療担当者に対し、みずから審査したところに従い、自己の名において診療報酬を支払う義務を負うものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四八年一二月二〇日、第一小法廷判決・民集第二七巻第一一号一五九四頁参照)。また、前述のとおり、診療担当者は、その診療報酬の請求に関し、請求書及び明細書を被告支払基金を経由して当該保険者に提出すべきものとされている。したがって、右の場合、制度上は、診療担当者は、直接、当該保険者に対し診療報酬を請求できないものと解される余地がないとはいえない。

(三)  そして、このような審査及び支払に関する事務の委託に関する制度は、通常は診療報酬の請求に関する審査能力を有しない保険者に代って、専門家により構成される審査委員会の機関をもつ被告支払基金が審査及び支払に関する事務を担当することにより、診療報酬の請求についての審査及び支払を一元的かつ迅速に行わせるものである。他方、前述した被告支払基金の診療報酬の支払資金に関する支払基金法の規定に鑑みれば、被告支払基金が診療報酬の支払能力を欠くに至ることは通常考えられず、また、前述のとおり、国民健康保険の保険者である市町村及び国鉄共済組合を除くほとんどすべての保険者が、被告支払基金に対し、診療報酬請求の審査及び支払に関する事務を委託していることをも考え合わせれば右の場合に、診療担当者が、直接保険者に対して診療報酬を請求できないとしても、通常診療担当者が不測の損害を被ることは考えられない。

(四)  しかし、前述のとおり、健保法上は、保険者は、診療担当者から診療報酬の請求があったときは、療養担当規則、算定方法告示に照らしてこれと審査したうえ支払うものとされ、被告支払基金は、保険者から右審査及び支払に関する事務の委託を受けた場合に限って自己の名において右の事務を行うものであり、また、右の委託をするかどうかは保険者の自由意思に任されているから、保険者が、被告支払基金に対し右の委託をしたからといって、その診療報酬の支払義務を全面的に免れるものと解すべき法的根拠はないといわなければならない。

(五)  以上述べたところによれば、本件のように保険医療機関が被告支払基金に対し、診療報酬の請求をしてその支払を拒絶されたため、右支払を拒絶された部分に関し、保険者に対し直接その請求をするときは、保険者が、被告支払基金に対する右委託関係の存在を理由として、自己に対する右請求を拒絶しうるものとはいえないというべきである。したがって、被告らの前記主張は採用することができない。

4  診療報酬請求権の要件事実、主張立証責任

(一)  健保法の規定によれば、医療機関は、その開設者の申請により、都道府県知事の指定を受けることによって保険医療機関となる(健保法四三条の三)が、右指定により、保険医療機関は、法律上当然にすべての保険者に属する被保険者及びその被扶養者に対し、療養の給付を行う義務を負い、また、療養の給付を行った保険医療機関は、保険者に対して診療報酬請求権を取得するものと解される。

(二)  元来、自由診療における医療契約は、通常医療機関(医師)と患者との準委任契約と解される。したがって、受任者である医療機関(医師)は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって患者の診療に当らなければならないのであるから、右契約に基づく報酬請求権は、医療機関(医師)が患者の身体に対し医療の名をもって何らかの手を加えさえすれば発生するというものではなく、その診療が医学常識に照らして妥当適切なものであることを要し、この事実については、報酬を請求しようとする医療機関(医師)が主張立証責任を負うことは明らかである。

(三)  ところで、保険診療は、現在における診療の大多数を占め診療報酬等の支払も国庫負担金、被保険者及びその事業主の保険料(健保法七〇条ないし七二条)、組合員の掛金、地方公共団体及び職員団体の負担金(地公共済法一一条)等、いわば国民から醵出された貴重な財源をもって充てられるものであるから、療養の給付の適正を確保し、診療報酬についても社会的に容認し得る支払の根拠を持つ等の必要が存するため、前述のとおり、社会保険各法の明文で、療養の給付の内容である保険医の診療は、命令則ち療養担当規則の定めるところにより行われるべきことが定められている。したがって、診療報酬請求権は、保険医の診療が同規則の定めるところにより行われた場合に限って発生するものであり、診療が同規則に適合して行われたことの主張立証責任は、前記自由診療の場合と同様に、診療報酬を請求しようとする診療担当者の側で負わなければならないと解するのが相当である。そして、右の理は、被告支払基金に対して診療報酬の支払を求める場合も異なるものではないというべきである。

(四)  ところで、原告は、被告支払基金が原告の診療報酬請求に関し、その診療内容にまで立ち入って審査をし、これを適応と認められないとして減点したのであるから、公平の観点等からいって、なぜ原告の診療が適応と認められないのかを明らかにすべきであって、原告としては、診療報酬請求権の要件事実として、保険医療機関が、保険受給有資格者に対し、療養の給付をしたということのみを主張立証すれば足り、原告の診療が療養担当規則に反するということは、被告らの側で主張立証すべき抗弁事由である旨主張する。

療養担当規則には保険医療機関のする療養の給付の具体的方針、範囲が定められており、審査委員会が診療担当者を代表する者、保険者を代表する者、学識経験者から構成されていること等は前述のとおりであるから、審査委員会の審査は、診療報酬の請求について誤記、誤算があるか等の単なる事務処理に類する形式的審査にとどまらず、医学的専門的見地から見て右請求が妥当適切であるかどうか等の実質的審査にも及びうるものと解すべきであるが、このような審査は、診療報酬の請求から支払に至る一連の手続の中間段階にあって、適正な診療報酬支払額を確認するためにされる当該診療報酬請求の点検確認の措置にとどまるもので、右審査により診療報酬請求権自体の増減が確定されるものではなく、右請求権が正当なものである限り、減点措置がとられても、その存否自体に消長を来すものではないと解される。そして、右審査の結果、当該診療担当者に発せられる増減点通知は、保険者あるいは被告支払基金の支払意思あるいは支払拒絶意思を通知するものにすぎない。

以上述べたところによれば、被告支払基金による右審査、減点の措置により診療報酬請求権の発生原因に関する主張立証責任には何らの影響を及ぼさず、右主張立証責任の帰属が転換されることはないというべきである。したがって、原告の右主張は採用することができない。

(五)  そして、保険医の診療が療養担当規則に適合するとは、具体的には、まず第一に、同規則一二条により、保険医の診療が一般に医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対して、適格な診断をもととし、患者の健康の保持増進上妥当適切に行われたものであることを要する。したがって、診療報酬の請求をしようとする保険医療機関等は、療養の給付の内容である保険医の診療について

(1) 一般に、医師として診療の必要があると認められる傷病等が存在したこと

(2) 右傷病等に対し、保険医(原告)が当時の医療水準に鑑みて適確な診断を行ったこと

(3) 右傷病等に対する保険医(原告)の治療が、当時の医療水準に鑑みて患者の健康の保持増進上、妥当適切に行われたものであること

の三点を主張立証しなければならない。なお、同規則二〇条は、右(3)の要件の一部についてその具体的な方針を明らかにしたものと解せられる。

5  本件診療報酬請求権の存否

次に、原告が本訴で診療報酬の請求をしている療養の給付が療養担当規則に適合したものであるかどうかについて、判断する。

(一)  原告のいう股関節周囲炎について

《証拠省略》を総合すれば、原告は、原告のいう股関節周囲炎について大要次のような理論的な提言をし、治療方法を採用していることが認められる。

(1) 躯幹あるいは下肢に及ぶ広範な筋肉痛を有する患者のうちに、股関節周囲部(大多数は梨状筋部)に著明な圧痛の認められる者があり、その圧痛部にステロイド剤を注射することにより、当該患者の躯幹あるいは下肢に及ぶ広範な筋肉痛が消失あるいは軽快する症例が多数存在する。このような傷病を股関節周囲炎と呼ぶ。

(2) この場合、股関節周囲組織に刺激状態、炎症の存在することが想定できる。このような股関節周囲組織の刺激状態を原因として下肢や躯幹に反射性の筋収縮が起こり、この筋収縮が持続することにより筋肉が疲れ易く、伸展や収縮でも痛みを生じ、あるいは腱付着部が過敏になる。このような場合、この筋の筋腹に圧痛を認めることができ、この状態を腱筋症あるいは反射性腱筋症という。また、逆に、下肢あるいは躯幹に存在する刺激状態、炎症が、股関節周囲組織に右の意味での反射性腱筋症を惹起し、股関節周囲組織にも刺激中枢(刺激の中心という意味)を産出する。相互の刺激状態は、相互に干渉し合い、第二次的に産出された刺激中枢が第一次的に生じた刺激中枢の腱筋症を増悪させることもある。しかし、一般的には、股関節周囲組織に治療を加えれば他の部位の炎症も消失あるいは軽快する。

以上述べたところから、股関節周囲炎とは、「股関節周囲組織に刺激中枢を有する反射性腱筋症」と定義できる。

(3) 股関節周囲炎の診察手続は、医学成書に記載されている一般的な診察あるいは問診のほか、圧痛部位の検索が重要である。この検索は、患者を側臥位とし、下側の下肢を伸展し、上側の股関節を約九〇度屈曲し、膝関節も屈曲し、大転子と坐骨結節の二点を確かめ、その二点を結ぶ線分を底辺とする正三角形に近い二等辺三角形の頂点を想定してその部位の圧痛を確かめる方法で行う。圧痛点の存在する部位は、梨状筋部が大多数で、その他に股関節部前面、大臀筋前縁、大腿二頭筋、大腿二頭筋腱等に存在する。股関節周囲炎の診療では、レントゲン線像(以下「レ線像」という。)は鑑別診断の対象とはならず、例えば、変形性脊椎症、脊椎骨粗鬆症等を認めても股関節周囲炎の診断を妨げない。

(4) 股関節周囲炎は、腰背痛ばかりでなく、ぎっくり腰、打撲症、肋骨々折、腰椎横突起骨折、背胸部の帯状胞疹(ヘルペス)、むちうち損傷の一部、肩関節周囲炎等を原因あるいは結果とする場合もあり、右各疾病の診断をすると同時に股関節周囲炎の診断をすることも妨げず、その治療が右各疾病に有効でもある。

(5) 股関節周囲炎の治療は、前記第二の五の被告らの主張に対する原告の反論3の(二)記載のとおりである。

(6) 原告のいう股関節周囲炎の頻度は、毎月、原告の社会保険診療報酬の請求にかかる患者総数の四〇パーセントを常に超えている。

(二)  股関節周囲炎という病名について

(1) 《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

① 股関節周囲炎という病名は、従来、わが国の医学成書には、その記載が見当らなかったが、原告は、昭和四三年一〇月にこの病名による診断を始めた。ドイツあるいはフランスの文献には股関節周囲炎という病名を記載しているものがいくつか存在し、わが国においても最近ではごく少数の医師等がこの病名を使用している。

② 昭和四九年一月二六日開催された北海道整形災害外科学会において、訴外石崎仁英らにより「股関節周囲炎について」という演題で報告がされ、同報告の要旨は、北海道整形災害外科雑誌第一九巻第一、二号(合併号)に掲載された。同学会に報告された股関節周囲炎とは、「股関節周囲軟部組織の退行変性を基盤として発症する有痛性の関節制動の状態を指す症候群」とされ、症状は、股関節部の疼痛で股関節屈曲位をとり、大腿直筋起始部に限局した圧痛が存在し、急性例では運動が全方向に制限され、激しい疼痛、微熱、赤沈亢進があり、全例に大腿直近起始部に石灰沈着像が認められ、治療としてはステロイド局注が著効を奏するというものである。

③ フランスにおける股関節周囲炎という病名を扱った文献の一つに、アンリ・セール(モンペリエ医学部リウマチ教室教授)、ルシアン・シモン(モンペリエ医学部教授、病院医師)共著の「成人の股関節疾患」が存在する。右文献にいう股関節周囲炎とは、関節周囲要素の損傷過程の総体で、実際は、股関節の石灰性包炎、同石炭性腱炎、転子包炎、転子症候群、転子炎、転子傍包炎及び腱炎等を総括したものとされ、その治療方法としては、関節の安静あるいは免荷が非常に有効で、その他アスピリンあるいはフェニールプタゾンの投与、ステロイド剤の関節周囲局所注射等があるとされる。なお、同文献にいう股関節周囲炎は、肩関節周囲炎に比べ、頻度が非常に低いとされている。そして、ドイツあるいはフランスにおける他の股関節周囲炎という病名は、その論者によって、それぞれの個性があることは否定できないにしても、右「成人の股関節疾患」に記載されている股関節周囲炎とその基調をおおむね同一にするものである。

右のような事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) 以上認定の事実によれば、原告のいう股関節周囲炎と北海道整形災害外科学会で報告された股関節周囲炎及びフランスあるいはドイツでいわれる股関節周囲炎とは、その内容において相当差異が認められる。その第一は、後者のいう股関節周囲炎が股関節周囲組織の局所的な炎症のみに着目し、その治療を論じるものであるのに対し、原告のそれは、反射性腱筋症という概念を通じて股関節周囲組織の炎症のほか、その遠隔部位の炎症をも想定し、股関節周囲組織の炎症に対する治療により遠隔部位の炎症も消失あるいは軽快すると論じていることである。その第二は、原告は、その治療の対象部位として梨状筋部を重要視するのに対し、その他の股関節周囲炎では梨状筋部を特別に意識したものは見当たらないことである。その第三は、その診察過程において原告の重要視するものは圧痛部位の検索であり、その他の診察手段、例えばレ線像、赤沈亢進、発熱等は股関節周囲炎の鑑別診断の対象とされないのに対し、北海道整形災害外科学会での報告では、右の診察手段をいずれも重要視し、また、フランスの「成人の股関節疾患」においても、レ線像の所見(石灰沈着像)の存在を重視していることである。

以上述べたところによれば、股関節周囲炎という病名を使用する医師等は存在するとしても、その概念は、原告のそれとは非常に異なるものといわなければならない。

(三)  関節周囲炎及び腰痛疾患について

《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 関節周囲炎としては、肩関節部及び肘関節部についてそれぞれ肩関節周囲炎(いわゆる五〇肩)、上腕骨内、外上顆炎等が一般に広く認められた病名として存在する。もっとも、肩関節周囲炎という病名も、肩関節周囲の滑液嚢炎、腱炎、腱鞘炎、結合織炎等を総称した症候的な診断名として用いられているものである。一般に、関節周囲炎の頻度は、股関節周囲炎が大多数を占め、上腕骨内・外上顆炎がこれに次ぎ、他の関節周囲炎は極めて少ないといわれている。

(2) 股関節の周囲においても、炎症は存在しうるから、股関節周囲炎と名づけるべき疾患が存在しえないわけではないが、股関節と肩関節を比べると、左記のとおりである。

股関節は、関節の受け(関節窩)に骨頭が納っているため非常に安定した球関節を形成しており、また、股関節の周囲をみると、後部には梨状筋、内閉鎖筋、双子筋、中臀筋等の筋群があるほか、坐骨神経、上臀神経、中臀神経、小臀神経が走行し、大転子部粘液嚢等が存在し、前部には腸腰筋、内転筋等の筋肉があるほか、大腿神経、大腿動脈、大腿静脈が走行している等解剖学的にみて相当大きく複雑な構造を有している。

これに対し、肩関節は、上腕骨の骨頭の受皿が極端に小さいため、このままでは脱臼するので、これを防止するため種々の筋肉群が付着して関節を形成している。この関節は、身体の各関節のうちでも最も自由に動く関節であり、そのために肩関節の筋肉のつかさどる仕事量は大きく、多大な負担がかかっている。

以上のとおり、両関節は、解剖学的な形状、複雑性、構造等において相当な差異を呈しているものであり、単純に両関節を同一に論じることはできない。

(3) 腰痛疾患は、各種存在するが、腰痛の原因としては、大別して、①脊椎、骨盤等の支持組織の疾患に基づくもの、②神経組織の疾患に基づくもの、③内臓の疾患に基づくもの、④心因性のものという分類が可能である。また、腰痛患者に対する病名として、一般的に、頻度の高いものは、変形性脊椎症、坐骨神経痛(椎間板ヘルニアを含む)、腰痛症であり、右の三つの腰痛疾患は場合により三大腰痛疾患とも呼ばれる。しかし、例えば、レ線像上変形性脊椎症の所見があっても、それと腰痛との関連が直ちに分明であるというものではなく、更にまた、腰痛症という病名は、レ線像上の異常所見がなく、他の原因も判然としないにも拘らず、腰痛があるといった場合につけられる症候診断としての病名でもあり、現在の医学上、腰痛疾患のうち、真の病態が明確に把握されているものは比較的少数である。

(4) 腰痛の治療は、疾患別にそれぞれ特徴を有するものであるが、一般には、次のような治療がされている。すなわち、最も重要なことは、腰部の安静と免荷であり、それとともに消炎鎮痛剤及び筋に攣縮の存在する場合は筋弛緩剤を投与し、あるいは坐薬を処方する。それでも効果があがらない場合は、ステロイド剤の硬膜外注入を行う。場合によっては軟性コルセットを用いる。

なお、原告は、腰痛患者に対するけん引療法を提唱し、同療法を実施しているが、右患者に対して同療法を採用するものは原告のほかには見当らず、また、急性期の腰痛患者に対する同療法は、かえって有害であるといわれている。

右のような事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  原告の診断について

(1) 前述のとおり、腰痛疾患のうちには、その病態が明らかになっていないものも多く、また、症候診断としての関節周囲炎という病名を使用する例は、肩関節、肘関節等に存在するから、肩関節と股関節との解剖学上の差にも拘らず、股関節部にも肩関節周囲炎に対応するような股関節周囲炎と呼ぶにふさわしい病態をもった腰痛疾患の存在する可能性は否定できない。

(2) しかし、前述のとおり、原告のいう股関節周囲炎は、肩関節周囲炎のように肩関節周囲組織という局所における炎症にのみ着目した病態をいうのではなく、股関節周囲部のみならず、それによって反射的な炎症の存在する遠隔部位(下肢から躯幹まで含む広範な部位)にも着目しているのであり、また、この点に原告のいう股関節周囲炎の最大の特徴の一つが存在するのである。以上述べたところによれば、原告のいう股関節周囲炎という概念は、医学上、一般的にいわれる肩関節周囲炎に対応する概念とはいえないというべきである。したがって、肩関節周囲炎という診断が一般的に認められていることをもって、直ちに原告のいう股関節周囲炎という診断が当該診療時の医療水準からみて的確な診断であったとはいえないというべきである。

(五)  そして、原告は、その股関節周囲炎について股関節周囲部(特に梨状筋部)の圧痛点がトリガーポイント(引き金)となって、躯幹から下肢にかかる広範な身体の部位に筋肉痛を惹起するから、右股関節周囲部に対するステロイド剤の局注療法が最も有効である旨主張する。

そして、一般的には、身体は一つの有機的な統一体としてその各部位が相互に連関しているものであるから、ある部位の炎症が他の部位に炎症を起こし、あるいはある部位の炎症の治療が他の部位の炎症に対し有効である場合もありうると考えられる。しかし、股関節周囲部(特に梨状筋部)の炎症と躯幹から下肢にかけての非常に広範な部分に存在する炎症(例えば助骨々折による痛み、帯状胞疹、肩関節周囲炎等)とがどのように関連しているかについては、これを認めるに足りる証拠はない。また、原告が主張するように、一般には股関節周囲組織(特に梨状筋部)の刺激中枢(炎症)が、遠隔部位に存在する刺激中枢(炎症)を支配し、股関節周囲部に対する局所治療が遠隔部位に存在する炎症にも有効であるということについても、これを認めるに足りる証拠はない。

(六)  もっとも、《証拠省略》によれば、一般の保険医療機関が行う日常の臨床診断においては、患者の訴える症状をそのまま傷病名としてカルテ等に記載し、対症療法を施しながら、経過を観察するほかはないというような場合もあって、必ずしもすべての患者について適確な病理組織学的な診断がなされているわけではないことが認められる。また、前述したところによれば、股関節部においても症候診断としての関節周囲炎と呼ぶにふさわしい病態をもった疾患の存在の可能性を否定することができず、原告のいう股関節周囲炎が右のような病態をもった股関節周囲炎を排除するものではないことは明らかである。したがって、原告が別紙目録(一)、(二)記載の患者らに対して股関節周囲炎という診断をしたというだけで、右患者らに対する診療が療養担当規則に適合しないものであると断定するのは相当でない。

(七)  そこで、原告が右患者らに対して施した治療内容について検討するのに、《証拠省略》を総合すれば、昭和四八年五月から同四九年一二月までの間に、別紙目録(一)、(二)記載の患者らのうち、松本もとゑが右臀部痛、蓬莱かおる、今井幹治、木下禎夫は腰痛、奥州房治が両下肢のしびれ等、金江よしのが帯状疱疹、胸部の疼痛等、寺尾よしのが右臀部、左腰部痛等、藤井佐喜代が腰部、両臀部痛、岡田和夫が腰痛、右臀部痛、本岡実治が左大腿の疼痛等を訴えて原告の診療を求めたこと、これに対し、原告は、右患者らについていずれも梨状筋部の圧痛の存在を根拠に両側又は左右いずれかの股関節周囲炎であると診断し、右患者らに対し、梨状筋部へステロイド剤を注射する注射療法を主とし、これに筋弛緩剤等の投与、場合によってはけん引療法(電動変形機械矯正術)等の理学療法を併用する治療を施しており、右ステロイド剤の施用に際しては、ステロイド剤を禁忌とする疾患に罹患しているかどうかについては注意していたものの、他の一般薬剤による治療効果の有無については格別検討することなく、これを最も優先して使用したこと、右患者らについての診療報酬のうち、被告支払基金が減点して支払を拒絶したのは、ステロイド剤の注射及びけん引療法に対するものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実と既に判示したところを合わせ考えれば、右患者らには、一般に医師として診療の必要があると認められる疾病等が存在していたものと推認されるが右患者らに対して施した原告の治療のうち、被告支払基金のした減点の対象となった治療内容は、当時の医療水準からみても、また、現在の医療水準からみても一般に承認されていない原告独自の理論に基づく特殊な治療方法であり、また、ステロイド剤の使用については、厚生大臣の定めた副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)等の使用基準を遵守していないといわざるをえないので、右治療が療養担当規則に適合しているものであるとは認め難い。

そして、別紙目録(一)、(二)記載のその余の患者らに対する治療については、これが療養担当規則に適合したものであることを認めるに足りる証拠はない。

(八)  以上の次第で、原告の本件診療報酬の請求にかかる療養の給付が療養担当規則に適合するものとは認められないから、原告は、その主張の診療報酬請求権を取得したものとはいえないというべきである。

三  結論

以上の次第であって、原告の本訴請求は、失当として、棄却すべきであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤榮一 裁判官 笠井昇 裁判官 田川直之)

〈以下省略〉

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